あおい君を家まで送り届けて、僕も帰宅したのは夜9時過ぎだった。

 キッチンまで行って冷蔵庫からビールを出した。

 そのビールをもって、舞花の部屋にやってきた。

 ぱちんと明かりをつけると、そのまぶしさに目がくらむ。

 そこは、舞花の好きなものであふれている舞花の部屋だからだったかもしれない。

 舞花の好きなものたちが輝いていたからかもしれない。

 舞花の人生、そのもの。

 舞花自身。

 舞花の勉強机の椅子に腰かけて、舞花の好きなものたちを見渡した。

 舞花がいなくなっても、こうして舞花の世界を見ることができる。

 舞花はいないのに、舞花の世界だけが残る。

 あの500万円も、まだ残っている。


__どうしたものかな……


 僕は舞花の部屋でしばらくぼーっとしてから立ち上がった。

 その時ふと、椅子に掛けてあった舞花の鞄に目が留まった。

 肩掛け部分にぶら下がった赤色の定期入れ。

 それをそっと手に取った。

 定期入れなのに、薄い定期券だけとは思えない厚みを感じた。

 僕は息を一つ飲んでから、狭い隙間からその中身を確認した。

 中には写真と、何回か折りたたんだ紙が入っている。

 僕はそれをそっと取り出した。
 
 写真はあおい君の写真と、僕たち夫婦の写真だった。

 いつの間に撮られたのか、とても自然体で、僕も歩美も笑い合っている写真だ。

 あおい君の写真は、優しさと舞花への愛おしさがあふれ出るような、穏やかな写真だった。
 
 その写真を横に置いて、僕は何回か折りたたまれた紙を開いた。

 その中身に、一瞬はっとした。


 それは、婚姻届けだった。


 男の子らしいちょっと雑なあおい君の字と、見慣れたきれいな舞花の字が並ぶ。

 僕はその文字を順に追っていった。

 名前、住所、生年月日……。
 
 じっくりと見てからもう一度折りたたもうとして、ふと目をやったのは、入籍日だった。
 
 それは、4日後の日付だった。

 

__この日付は何だろう。

  どうしてこの日にしたのだろう。

  二人の記念日か何かだろうか。
 

 僕はその日付をじっと見ていた。

 別にずっと「何だろう……」と考えていたわけではない。

 ただ、この日付に見覚えがあったのだ。

 本当に、つい最近、いや、今さっきどこかで見たような……。

 そして聞いたことがある気がした。

 愛おしい、幼い声で。
 

 そこまで考えて、僕はもう一度はじめから婚姻届けを見返した。