子どものやることには口を出したことがない。
 
 子供の気が済むまでやらせる。
 
 好きなようにやらせていたらいつの間にか……
 



 世界で活躍する有名人の親たちがこぞってそう口にするのを何度も聞くけど、僕たちはそんなの信じなかった。

 子どもの好きなようにさせておけばわがままな子に育つだろうし、口出しをしないなんて、そんなの親の怠慢だとしか思えなかった。
 
 そんな方法で子どもが育つわけがない。

 表向きはそう言いつつも、裏ではきっと何かやっているんだ。

 子どもを放っておくだけで何かに興味を抱いたり、好きなことを見つけたり、夢中になったりできるわけがない。

 親が何かきっかけを作ったり、見せてあげたり教えてあげないと。

 そうでなければ、子どもは育たない。

 子どもが勝手に育つわけがない。
 

 だから僕たちは、舞花にいろんな習い事をさせた。
 
 約束や制限もして社会のルールを教えた。
 
 だけどそれを厳しいしつけだとは思わなかった。
 
 僕たちのやり方が普通で、周りが甘すぎると思っていた。
 
 その証拠に、舞花はこんなにも良い子に育った。
 

 わがままも言わない。

 聞き分けが良くて、空気も読めて、賢くて。

 本当に手のかからない子だ。


 実際舞花は学校の合唱発表会で全校生徒の前でピアノ伴奏を任されるほど上手かったし、習字だっていつも何かしらの賞を取って表彰されていた。

 英会話教室のイベントに参加しても、外国人の先生とナチュラルにコミュニケーションがとれていた。

 頭も良かった。

 褒められることしかなった。

 自慢の娘だった。


 このまますべての習い事を続けていれば、舞花の将来は明るくて、職業は選びたい放題で、どんな夢も叶えられる。
 

 だけど舞花は、そのすべての可能性を放棄するように、習い事をやめた。

 通信教育の教材も、うちには届かなくなった。

 好きなものを買って、やりたいことを好きにやっている時間が増えた舞花に、習い事の練習や塾の宿題をやる時間はなくなった。

 だから僕たちも、いずれは習い事や通信教育をすべて解約しようと思っていた。

 習い事で埋められていた舞花の時間が、ぽつぽつと空白を作っていく。

 その時間を、舞花は友達との時間で埋めていった。