ホテルに着くとまだチェックインの開始時刻前だったので、試しに小春のスマートフォンに電話を掛ける。コール音が鳴った後に、電話に出られないというメッセージに切り替わったのだった。

(まさか、もうすでに犯罪に遭っているとか、そんな事はないよな……)

 心臓が嫌な音を立てる。気持ちを落ち着かせながら、宿泊客を装ってスマートフォンを弄る振りをしながら、柱の影からチェックインカウンターを見張る。しばらくすると、スーツケースを引きずった小春がホテルに入って来たのだった。

(やっぱり、来ていたのか……。どうしてここにいるんだ……。体調はどうなんだ? 無理をしていないのか……)

 今のところ大事無いと知って安心するものの、チェックインカウンターに並ぶ小春を見ながら様子を伺って声を掛けるタイミングを探す。順番が回ってきて、チェックインカウンターに向かった小春だったが、しばらくすると何やら急に慌て出した。じっと聞き耳を立てたところ、どうやらインターネットから申し込んだはずのホテルの予約が取れていなかったらしい。海外旅行の失敗談として、その話自体はあまり珍しくないが……。

(運が悪いな。空室がないとは)

 ホテルスタッフに空室がないと言われた小春がホテルの出入り口に向かうので、その後を追いかける。ホテルの入り口で見知らぬ女性に話し掛けられていたので、気付かれない内にまた出入り口付近に身を潜める。
 日本語が堪能で、見るからに人当たりの良さそうな女性だった。アメリカ人特有の容姿と服装から、いかにも現地の人間らしい。

(小春の知り合いなのか……?)

 小春の知り合いじゃなければ、ホテルの予約が取れなかった外国人旅行者を狙った犯罪者の一人だろう。
 危ない雰囲気になったら止めればいいかと考えていた矢先に、嫌な予想が的中したのは、その直後だった――。