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 カーテンの隙間から日の光が差し込み、千夏は目を覚ました。

「んっ……朝?昼?……っつ、頭痛い」

 千夏はこめかみに手を当てた後、気だるげに髪を掻き上げた。頭の中の血管が大きく脈を打っているのか、ドクンッドクンと動くたび頭に響く。
 
 こんなに酷い二日酔いの頭痛久しぶりだな。そう思いながら寝返りを打つと、見たことのない男性が隣で眠っていた。

 千夏は悲鳴を上げそうになったが、それが昨日来たハウスキーパーの陽翔だと気づき安堵の溜め息を付く。

 ん?

 違う違う!!安心してどうすんの!!

 私どうして裸で陽翔くんとベッドにいるわけ?

 全然思い出さない。

 こんないたいけな可愛い男の子を、私が食べちゃったの?

 サーッと血の気が引いていく。

 千夏が一人百面相をしていると、ぷっと言う笑い声が聞こえてきた。

「千夏さん、かわいい」

 かっ……かわいいって私が?

 固まる千夏を陽翔は抱き寄せ、千夏の髪に顔を埋めてきた。

「んー。良い匂い。千夏さんの匂い好きだな」

 ひぇー。

 何なのこの距離感。

 あたふたとする千夏を陽翔は愛おしそうに見つめ、優しく頭を撫でてきた。千夏の身体に甘いしびれが生まれ、身体が熱くなる。

 やだやだ、何これ……何なのよ。

 思わず千夏は両手で顔を覆い、陽翔の胸に顔を埋めた。そんなん可愛い仕草をする千夏を陽翔は更に強く抱きしめてくる。千夏は陽翔に抱きしめられながら、はたと気づく。

 私が陽翔くんを襲ってしまったのよね?

 千夏はガバッと起き上がると、床に落ちていた下着と部屋着を高速で身につけベッドの上に土下座した。

「ごめんなさい!!酔っ払っていたとはいえ、男の子を襲ってしまうなんて……本当にごめんなさい」

千夏はベッドに頭を押しつけ、これ以上下げられない所まで頭を擦りつけて、精一杯の謝罪をする。そんな千夏を見つめ耐えられないとばかりに陽翔が笑い出す。

「千夏さん……くくくっ、別に俺は襲われたわけでは無いですよ。って言うか襲ったの俺だし……」

 少し頬を染め口元を手で押さえている陽翔の最後の言葉は、千夏の耳には届かなかった。

 どうやら無理矢理襲ったわけではないようね。

 同意の上だった?

 それならまあいっか……。

 っと言うわけにはいかない。

 出会ったばかりの人と一夜を共にしてしまうなんて……しかもそれを覚えていないなんて……。ありえない。

 頭を抱える千夏の頭に陽翔がキスを落としニコニコと微笑んだ。

「千夏さんとりあえず、ハウスキーパーでまた来るので、よろしくお願いします」

 千夏は陽翔の可愛らしい笑顔に胸がキュンッと高鳴った。