千夏は仕事の他、外では何でも完璧にこなすパーフェクト社長なのだが、実は家事全般が、苦手女子であった。休みの日に家事をがんばろうと、料理本を片手に料理を始めると包丁を持った途端に、何故か指から血が流れていたり、料理本通りに料理を作っているというのに、何だか良く分からない物が生み出された。料理を諦め、片付け始めれば何故かよけいに散らかり片づかなくなってしまう。洗濯物はなんとかやっているが、色移りや服が縮むのは毎度のことだ。

 壊滅的に家事が出来ない千夏にとって、テキパキと家事をこなす陽翔の姿はさながら魔法使いのようだった。

「魔法みたい」

 千夏がポツリと呟くと陽翔の手がピタリと止まった。

「魔法ですか?」

 クスクスと笑う陽翔はよく見ると、とても整った顔立ちをしていた。女子も羨むようなキメ細かい肌に、色素の薄い薄茶色いサラサラの髪、クリッとした瞳。ニコリと笑った顔は庇護欲をそそる。こんなに可愛らしい顔をしているというのに意外にも私より背が高い。

 この子、年上からも年下からもモテそうね。

「ねえ?きみは、どうしてハウスキーパーなんてやってるの?」

「……自分の好きな時間に出来るバイトだからですかねぇ?」

 どうして疑問形?

 千夏が首を捻っていると玄関のチャイムが鳴った。

 今日は訪問者が多いわね。

 そう思い立ち上がろうとしたところで、陽翔に止められる。

「千夏さんはそのまま座っていて下さい」

 あれ?

 私、名前教えたかしら?

 頭の中にハテナが浮かんだが、お酒の酔いが回り始めた頭ではすぐに疑問は消えてしまった。玄関へ向かった陽翔がしばらくして戻ってきた。

「ハウスキーパーの先輩でした。今日が初めてだから心配して来てくれたみたいで、大丈夫って話したら帰って行きました」

「そっか……ところで、ハウスキーパーの仕事、初日1時間の話だったけど延長できる?」

「えっ……はい。大丈夫ですけど何かありますか?」


 延長できるんだ。

 それなら……。