「忠信さん、俺は何をすれば良いですか?」
磯田は、陽翔と忠信の指示を受け、社長に気づかれないよう秘密裏に動いた。
その日の夜、俺は拓人を部屋に呼び出し、壁に叩き付けた。いわゆる壁ドンと言うやつの少し強いものだと思って欲しい。
「痛い。駈(かける)どうしたの?何かあった」
「何かあったのはお前の方だろう」
磯田は拓人の腕を掴み睨みつけた。
「なぜ黙っていた」
「駈?何を言ってるかわからないよ。分かるように説明して」
「見合いの話し黙っていただろう」
「「…………」」
二人の間に沈黙が流れる。
「ごめん……言う必要ないって思ってたから」
言う必要が無い……。
それは俺には関係ないって事か……。
俺達の関係はそんなものだと言うことか……。
磯田は奥歯に力を入れ顔を歪ませた。
「渡さない……お前は誰にも渡さない」
磯田は拓人の唇を乱暴に食んだ。そして激しく口づけを交わしていく。
「……んっ……ちょっと……まっ……まって」
「うるさい。お前は俺だけ見ていろ」
磯田は拓人をベッドに引きずり込むと、拓人が動けないよう上に馬乗りになった。そして拓人の着ていたシャツのボタンを乱暴に外したところで、磯田はその手をピタリと止めた。急に動かなくなった磯田を拓人が見上げると、自分を見下ろす磯田の瞳からポタポタと涙がこぼれ落ちてきた。
「なんで……なんで俺は男なんでろう」
俺が女なら拓人と普通に付き合って、結婚して、子供作って、普通の幸せを掴むことができるのに……。
なんで俺は……。
「駈、何言ってるの?俺は駈が好きなんだよ。男とか女とか関係ないから」
「でも、もし俺が女なら拓人はお見合いなんかしなくてもすむだろう」
「はぁー。何処からその話しを聞いたか知らないけど、その話はもう断ったし」
「…………」
ん……?
どういうことだ。
忠信さんの話では……これから見合いをする感じの言い方……。
違う忠信さんは見合い話があると言っただけで、これから拓人がお見合いをするとは言ってはいない。
しまった。
そういうことか……やられた……。
俺は忠信さんの手のひらで転がされていたんだ。
忠信さんも見合いを拓人が断ったことは知っていたはずだ。俺がかってに勘違いして忠信さんの話にのったんだ。
くそ……。
「駈、大丈夫か?」
「ああ、すまない。冷静さを欠いていた」
大きく息を吸い吐き出すと、先ほどの感情むき出しの表情は消え、いつものクールな磯田にもどっていた。
「あれ?もういつもの駈にもどっちゃった。しかたないな……」
拓人はそう言うと、グッと腕に力を入れ、自分の位置を逆転させた。今度は磯田が拓人に組み敷かれる形となる。
「さっきのなんて言ったっけ?お前は誰にも渡さないと、お前は俺だけ見ていろだっけ?それに、なんで俺は男なんだろうだっけ?」
やばい。
俺はなんて事を言ってしまったんだ。
磯田は恥ずかしさから顔を赤く染まると、拓人からの視線から逃れるため、プイッと顔を横に向けた。
「うわ。何その感じ。すっごく可愛いんだけど」
くすくす笑う拓人に磯田は声を荒げた。
「うるさい」
「あれれ?今になって自分の台詞が恥ずかしくなっちゃった?俺は嬉しかったんだけどな。いつも感情を抑える駈が、感情むき出しにして俺を求めてくれてさ」
確かにさっきは、拓人を誰にも摂られたくないと必死だった。
俺は拓人がホントに好きなんだと思い知らせれた。
「拓人……好きだ」
「今日はホント素直だね」
拓人は磯田の唇に優しく自分の唇を重ね、その後、何度もついばむ様なキスが続く。
「駈、今日は覚悟してね。お仕置きも含めて、可愛がるから」
そう言った拓人の口角がニヤリと上がった。