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リビングでは陽翔の両親と、千夏の両親が楽しそうに話をしていた。
「いやーこの間のパーティーは最高でしたよ。こう千夏さんを陽翔が抱き寄せて『俺の千夏から離れろ』って言ったんだ」
「「キャーー!!」」
「「それでそれで」」
「それから……」
盛り上がる4人を前に、千夏と陽翔は恥ずかしさから震えていた。そして先に声を上げたのは陽翔だった。
「いい加減にして下さい。とくに父さん!あの日のことを、面白おかしく話すのはやめて下さい」
「いやー。すまんすまん」
本当にすまないと思っているのか、と思うぐらいの軽い返事に、陽翔がキレそうになっているのが分かる。もし、私と陽翔の立場が逆なら、私はとっくに切れていただろう。
「もー。陽翔ったらパパを怒らないであげて。もうすぐ孫が見られるかもって、浮かれているだけだから」
「そうだぞ。琴ちゃんの言うとおり、パパは早く孫の顔を見たいだけなんだ」
「それなら、うちもよ。ねー。あなた」
「そうだな。早く孫を抱きたい」
この人達は……。
「それにしても陽翔が長期休暇が欲しいと言ってきた時は何事かと思ったけど、まさか『嫁を連れてくるから休ませて欲しい』と、お願いされるなんて……パパはあの時ドキドキが止まらなかったよ」
えっ……。
嫁を連れて来る?
千夏が陽翔の方へと視線を向けると、陽はワナワナと震えていた。
「父さんそう言うことをみんなの……千夏さんの前で暴露するとか辞めてもらえますか」
「えー。どうして?実際、お嫁さん連れて来てくれて、パパは嬉しいぞ」
「ちょっと父さんは黙っていて下さい。だいたい俺達は結婚もまだなんですよ。孫とか……いろいろ気が早すぎです。俺達の事は放っておいて下さい」
そこで、陽翔と忠信の会話を黙って聞いていた琴音が、話しに割って入った。
「えー。放っとけないわよ。だって、あなた達に任せておいたら何時になっても進展しなさそうなんですもの」
そう言いながら琴音が口を尖らせ、陽翔を見た。しかし陽翔はそんな琴子に向かって勝ち誇ったかのように口角を上げる。
「母さん言っておくけど俺、千夏さんからプロポーズ受けてるから」
「「「「えっ……」」」」
驚いた両親達、四人の声が重なる。
「千夏ちょっと、どういうこと!」
春菜の声と共に、4人の視線が千夏に注がれた。
どういうことって、こっちが聞きたいわよ。
千夏は4人からの視線から逃れるため、陽翔の方へ視線を送った。すると真剣な瞳でこちらを見つめる陽翔と目が合う。
「千夏さん言ったよね。俺のことお嫁さんに欲しいって」
「…………」
言った……確かに言ったわ。
かなり酔った状態だったけど、お嫁さんに欲しいって言った。
何も言わない千夏の両手を陽翔は取り、その指先に唇を当てながら、上目づかいの潤んだ瞳で、見つめた。
「千夏さん……忘れちゃった?」
ズキュン!!
千夏はその時、心臓が何かに射貫かれたような気がした。
可愛すぎる。
千夏は陽翔の両手を握ると、両親がいることも忘れて叫んでいた。
「お嫁に来て下さい」
その言葉を聞いて、陽翔が嬉そうに破顔した。それを後ろで聞いていた両親達も、陽翔を上回るほどに歓喜し、喜んでいたことは言うまでもないだろう。