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土曜日の朝、けたたましく玄関のチャイムが鳴り響いた。千夏は寝起きのボーッとした頭のまま、玄関の扉を開くと、そこに立っていたのは、嬉しそうに微笑む母の姿だった。
「ちょっと千夏聞いたわよ。この間のパーティーでやらかしたらしいじゃない。その話し、聞かせなさいよ」
「やらかしたって……。あれは私のせいじゃないわよ。私はやらかしてない」
達哉には悪いけど、騒ぎを大きくしたのはあいつだ。
「あんたは昔から男の趣味が悪いんだから。あんな男に引っかからなくて良かったわ」
「…………」
こればかりは何も言えなかった。確かに私の男を見る目がなさすぎたのだろう。
「それにしても、一人のヒロインをヒーローの二人が取り合うなんて小説の話みたいね。でもそれが千夏なんて笑っちゃうけど」
あはは。と面白そうに笑う母。
この人は一体どこまで知っているのだろう。
「それで、その後はどうなってるのよ」
「どうって?」
詰め寄ってくる母を、引き気味に一歩後ろに下がった時、玄関のチャイムが鳴った。
良かった。千夏は母から逃れるため、急いで玄関に向かい扉を開けた。
「千夏さんおはようございます。あれ?まだ寝ていましたか?」
はっ……陽翔!!
今日約束していたかしら?
千夏はあたふたとしながら、ボサボサの髪を整えた。すると千夏の後ろからひょっこりと千夏の母が顔を出した。
「あっ、陽翔くんおはよう。上がって、今コーヒーでも入れるから」
「おはようございます。春菜さん、お久しぶり出す」
えっ……。
春菜さんって……。
「ちょっと待って、二人とも知り合いなの?」
「知り合いに決まっているじゃない、見合いの話しを持ってきたのは私よ。忘れたの?私が陽翔くんのこと気に入ったけら千夏に勧めたんじゃない」
そうだった。
見合いの話を持ってきたのは母だった。
「陽翔くんが私の息子になるなんて最高。千夏良くやったわ」
「お母さん気が早いわよ」
「どうしてよ。陽翔くんはどうなの?」
陽翔の答えを聞く前に、また玄関のチャイムが鳴った。玄関の扉を開くとそこには上品な服装の女性が立っていた。
誰?
千夏がキョトンとしていると後ろから驚いた様な声が響いた。
「母さん!」
ん?
陽翔のお母さん?!
陽翔と千夏が驚いていると、春菜が玄関先で立っている女性に向かって声をかけた。
「あっ、琴音いらっしゃい」
「おはよう春菜、ちょっと遅くなっちゃった」
仲よさそうに話す母二人を見つめ、二人は固まっていた。
何これどういう状況?
「ほら二人ともボーッとしてないの。リビングへ行くわよ」
四人はとりあえずリビングへと向かった。
*
「あのー。これはどういう状況なんでしょうか?」
恐る恐る千夏が尋ねると、千夏の母である春菜が嬉しそうに話し出した。
「千夏と陽翔くんが付き合いだしたみたいだから嬉しくって、琴音と一緒にお祝いしようって話になったのよ」
「ちょっと待って……えっと、琴音さん?とお母さんはどういう関係なの?」
「あら、琴音さんだなんて、お母さんって呼んで良いのよ。千夏ちゃん」
「おおおっ……お母さん?!」
慌てる千夏をなだめるように陽翔が優しく背中を撫でた。
「千夏さん落ち着いて、母さん全然答えになってないよ。それで、二人はどういう関係なんですか?」
母二人は顔を見合わせると笑い出した。
「琴音と私は高校からの親友同士なのよ」
「そう。親友!昔から二人の子供が結婚したらいいねーって話していたのよ。だからパーティー会場での話を聞いて興奮しちゃったわ」
「で、今日二人がうまくいくように計画を立てようって事になって、集まることになったの」
集まるって……まさか……。
ピンポーン。
玄関のチャイムがなり千夏は恐る恐る玄関の扉を開いた。するとそこに立っていたのは……。
「お父さん!」
そして、お父さんの後ろにもう一人男性が……。
この人って……。
「父さん……」
扉を開けたまま固める千夏の後ろから、額に手を当て目をつぶる陽翔が呆れたように声を発した。