俺はこんなガキに千夏を摂られるのか?
そんな事は許さない。
「千夏どうしてだ。どうしてそんな顔をする。そんなやつに微笑みかけるな。千夏とそいつとじゃ、釣り合わないと言っただろう?」
「釣り合わないとはどういう意味だ?」
陽翔の低い声が、シンと静まり返っている会場に響き渡る。
「お前みたいな子供と千夏とでは、釣り合わないと言っているんだ。さっさとここから出て行け」
「ふぅーん。子供ね……」
三人のやりとりを聞いていた回りの人々が、ザワザワとざわめき出す。
「ちょっと、あれまずいんじゃ無いの」
「あの人、大丈夫?」
何やら不穏な空気が流れ始め、達哉は眉を寄せた。
何だ?
どういうことだ?
その時、達哉の肩を同期の社員が顔を蒼白にさせながら掴んだ。
「おい!村上、お前何やってんだよ。社長怒らせてどうする気だよ」
「社長……?」
唖然とする達哉の前で、陽翔は髪を後ろへと撫で付け、眼鏡をかけた。するといつものベビーフェイスでは無い大人の男性が現れた。
千夏は達哉の方へと視線を向けると、達哉の顔から見る見るうちに血の気が引いていき、今にも倒れてしまいそうなほど蒼白な顔をしていた。体は小刻みに震え、額からも汗がにじみ出しているのが確認できる。
「如月社長!もっ……申し訳ありません。このような場で……」
達哉が頭を深々と下げた。
「別にかまわない。少し騒ぎを起こしすぎてしまったけどな……とりあえずお前はもう帰れ」
「ですが、社長!」
「俺は帰れと言っているんだよ。後で連絡するから、今は帰りなさい」
陽翔の冷淡な言葉遣いに、達哉は深々と下げていた頭を上げると、フラつく足取りでパーティー会場を出て行った。
「千夏、大丈夫か?」
まるで別人の様になってしまった陽翔を見つめ、千夏は唖然とすることしか出来なかった。
私の目の前にいる男の人は一体だれ?
陽翔が如月グループの社長?
どういうこと?