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レストランから千夏の部屋へと帰って来た二人は、黙ったままソファーに腰を降ろしていた。帰りのタクシーの中でも何も喋らない陽翔と共に帰って来たのは先ほどの話だ。
シンと静まり返った部屋はいつも自分が暮らしている部屋では無いかのようで、千夏の不安を煽った。
陽翔くん……。
どうして何も言わないのかしら。
きっと私の気持ちには気づいているはずだ。
私が陽翔くんを……好きだということを。
自分の気持ちを再認識した瞬間、千夏の心臓はドキドキと動き出した。
ここで私から陽翔くんに話しかけた方が良いのかしら?
なんて話しかけたら良いのか分からず、千夏の緊張はピークに達しようとしていた。
緊張する。
喉がカラカラで喉の奥がヒリつくようだ。
そんな千夏の様子に気づきながらも陽翔も何も言えずにいた。しかしこのままでは何も進まないと陽翔は両手に力を込めると、引き結んでいた口を開いた。
「千夏さん、さっきの言葉はどういう意味ですか?」
陽翔は震える手で千夏の頬にそっと触れた。
陽翔くん……震えている。
いつも温かい陽翔の手がいつもより冷たく感じる。
「俺のこと大切って、俺を選んだって、それってどういう意味?」
私……本人を目の前にそんな事をよく言ったわよね。 自分で言った言葉に恥ずかしさがこみ上げてくる。身体が熱くなり、顔から火が出そうだとはこのことなんだと思った。きっと私は真っ赤な顔をしているに違いない。
それでも、言わなくちゃ……自分の気持ちを、この思いを。