ドキドキが止まらない。

 思春期の少女のように高鳴る心臓……。

 どうしちゃったのよ。

 私の心臓、落ち着きなさい。



 身体が熱くなっていく。



「千夏さん、何その顔。めっちゃくちゃ、やらしい顔してるけど……誘ってる?」

「ちっ……違うわよ!」

「それは残念」

 そう言うと、陽翔は千夏から離れ、手を差し伸べてきた。

「千夏さん疲れてるでしょ?もう寝ましょう」

 千夏は陽翔に手を引かれ寝室へとやって来た。

 いっ……一緒に寝るのよね?

 先に陽翔がベッドに寝転がった。すると千夏を誘うようにベッドをポンポンとたたき、寝るように促してくる。千夏はゴクリッと喉を鳴らすと、そっとベッドの上に膝をついた。

「しっ……失礼します」

 なぜか千夏は敬語で陽翔の隣に寝転んだ。

 千夏の様子を可笑しいそうに眺めながら、陽翔は千夏の身体を抱き寄る。

「千夏さんホント、いい匂いがするなー」

 千夏を抱きしめ髪に顔を埋めると、陽翔は深呼吸を繰り返した。ちょっと間違えれば陽翔のしていることは変態的行動だが、千夏の心臓は早鐘を打ち身体の芯を熱くさせた。

「こっ、この匂い気にいった?如月ホテルに出すアメニティに入る予定の試供品なの」

「そうなんですね。俺、好きだな」


 好き……。

 そういう意味では無いと分かっているのに、心が揺さぶられる。


 平静を装うも、いてもたってもいられない。それなのにもがくことも出来ず、金縛りにでも遭ってしまったかのように身体が強ばっていた。

 

 たっ……助けて……。

 息が出来ないよ。



 まるで世界から酸素が無くなってしまったかのようだ。

 はくはくと呼吸を繰り返す千夏を見ていた陽翔が「ぷっ」と吹き出した。

「くくくっ……千夏さん、大丈夫です。何もしませんから。ほら、ゆっくり呼吸して」

 温かい手で背中を優しくなでられ、千夏はゆっくりと呼吸を繰り返した。すると肺の隅々にまで酸素が行きわたり、やっと呼吸が楽になっていく。

「はー。死ぬかと思った」

 その言葉を聞いた陽翔が千夏を抱きしめていた両腕に力を込めた。

「千夏さん、かわいい」

 かわいいって、年下にそんなこと言われるなんて……。

 また呼吸を忘れて「はくはく」していると、優しく背中を撫でられた。そして陽翔の額が千夏の額にコツンとくっつけられる。

「ほら、大丈夫だから目を閉じて眠って下さい」

 落ち着いた優しい声に促され目を閉じると、眠りがやって来る。先ほどまで高鳴っていた心臓のせいで、今日は眠れないと思っていたのが嘘のように、意識がまどろんでいく。

 温かい手が背中を行き来する。

 気持ちいい。


 フワフワとした心地の中、千夏は眠りに落ちていった。