恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~

「笑美さん、警察の方が事情を聞きたいそうなんですが、ここに連れてきても構わないですか?」

「警察?」

「元彼さんについて、聞きたいことがあるようです。その方は僕の知り合いの刑事で、昔からお世話になっているしっかりした方だから、安心してお話できますよ。もちろん僕も同席します」

 現在進行形で抱きしめられていることや、警察と話をするということで不安になっている私を宥めるように、澄司さんは優しく語りかけながら頭をゆっくり撫でる。

「お願い、します……」

「今日の笑美さんは素直すぎて、手放したくないかも。ふふっ」

 笑ったかと思ったら、私に顔を寄せる。目の前に迫る澄司さんの顔に両手を押しつけて、近づけないようにした。

「笑美さん、いろんな意味で痛いです」

「あっ、キズ! ごめんなさい」

 頬に大きな絆創膏を貼っていたのを思い出し、手の力を抜いた瞬間、私の両手の間から澄司さんの顔が現れ、頬にキスをされてしまった。

「嘘ですよ。痛くありません」

 冷たい唇が頬から放れても、至近距離は相変わらずだったので、澄司さんの胸を押して強引に距離をとった。すると今度は私から腕を放して、ベッドから腰をあげる。

「澄司さん嘘つかないでください。心配したのに!」

 拒否しても、いつもなら私の嫌がることをするはずなのに、妙に引き際のいいことに違和感を覚えた。

「なんだか笑美さんが、らしくなかったものですから。僕なりの思いやりです」

 柔らかく微笑んで颯爽と出て行く、大きな背中を見つめるしかできない。元彼から守ってくれたことや、今のように気を遣わせてしまったせいで、複雑な気持ちになった。

(ショックなことがあったあとだけに、こうして優しくされるとすごく困る。私の不安定な心を澄司さんの優しさが癒してくれるおかげで、どこか安心してる自分がいる――)

 普段なら直接的な接触をされることが嫌なはずなのに、傷を負わせてしまったことやメンタルが凹んでいるせいで、素直に従ってしまう。

「こういうときだからこそ、とことん抵抗しなきゃいけないのに。佐々木先輩、ごめんなさい」

 自分の体を抱きしめながら、ふたたび気落ちしたのだった。