恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~

「外界から閉ざされた、ふたりきりのこの特別な空間。笑美さんの香りや体温を傍で感じながら吐き出す呼吸のすべてを、僕のものにしたいんです」

(無理無理無理! できることなら息を止めたいっ! そして早くここから脱出したいっ!)

「僕を拒絶する笑美さんのその目、すごくいい。猫なで声をあげて、媚びを売る女のコなんかよりも、笑美さんが一番です」

「きききっ、気持ち悪い!」

 思わず、口を突いて出てしまった。言った瞬間しまったと悟ったものの、あまりの気持ち悪さに告げずにはいられなかった。

「気持ち悪い……。傍から見たら、そう思うのは普通でしょうね」

 顎に手を当てて前を見据える澄司さんの姿は、いつもどおりなのに、口にする言葉がいちいち恐怖を煽るものになる。

「笑美さんに罵られたときだけ、心がキュッと締めつけられるんです。不思議ですよね」

「え、駅前ですよ。ここで降ろしてください!」

「もう少しだけ罵ってほしいので、ご自宅までお送りします♡」

(ここで拒否すれば、澄司さんを無駄に悦ばせるだけだ。無言を貫こう!)

 こうして変態に目覚めてしまった澄司さんに、自宅まで送られることになった。その時間の長かったこと! 私からの罵倒を待つ澄司さんの誘導尋問に困難を極めたけれど、とにかく無表情で無言を貫いて、すべてスルーした。

「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。勃ってるとはいえ、人目のつくところで笑美さんを襲ったりしません」

(これって、人目のつかないところで襲う宣言じゃないの! ガチでヤバいヤツ!)

「怯えて顔を強ばらせてる表情、なんとも言えないですね。笑美さんが感じてるときの顔と、どっちがセクシーなのかなぁ」

(そんなもの比べるな、嬉しそうな顔して妄想するな。マジで気持ち悪い!)

「……佐々木さんと一緒にいるときの笑顔、どうしたら僕は見ることができるんでしょうね」

 それは自宅前に到着した途端に、とても小さな声で告げられた。

「マンションに到着したんですから、降ろしてください」

 さっさとシートベルトを外し、鞄を胸に抱いてすぐに降りられるようにスタンバイする。横目でそれを確認した澄司さんは、ごねることなく運転席から腰をあげて外に出ると、助手席のドアを開けてくれた。