恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~

 寂しげに告げたあとに、私の手をやっと放してくれた。

「すみません、赤くなってしまいましたね。痛くないですか?」

 怖々と戻っていく私の右手を見ながら心配する澄司さんに、黙ったまま首を横に振ってみせた。

「笑美さんに拒否されればされた分だけ、友だち以上になりたいという感情が芽生えてしまいました」

 澄司さんから注がれる視線を遮るために、私は横を向いた状態で俯く。彼の言葉が本当なら、現在進行形でおこなっているこれも、友だち以上になりたいという感情を煽ってしまうことになるだろう。

 それでも拒否せずにはいられなかった。佐々木先輩のために――。

「佐々木さんのどこがいいんですか?」

 彼の口から出たセリフで、ガーベラを包むセロハン紙がガサリと鳴る。静まり返る車内で、それは雑音になった。

『ほら、やっぱり似合ってる』

 澄司さんの質問で、さっきの出来事をまざまざと思い出した。私の耳にガーベラを挿して、とても嬉しげに微笑んだ佐々木先輩の笑顔は、とても素敵なものだった。すぐ傍にいる澄司さんが霞んでしまうくらいに。

「佐々木先輩は自分のことよりも、私の気持ちを一番に考えて、優しくしてくれるんです」

 ちょっとずつ距離を縮めたいなんていう、私のワガママとも思える付き合い方を聞いても嫌な顔ひとつせずに、いつもきちんと向き合ってくれた。

「優しくするなんて、誰にでもできることじゃないですか。そればっかりじゃ物足りなくなる」

「佐々木先輩の優しさと、澄司さんが与えてくれる優しさは種類が違うんです」

「優しさの種類……。そんなものを比較されるとは意外でした」

 はーっと胸に溜まった空気を押し出す感じの、大きなため息をついた澄司さん。私はずっとガーベラの花束を見つめているので、彼がどんな顔をしているのかわからない。だけどあまりいい様子じゃないのは、口調が示していた。