恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~

「こうして一緒に歩いて帰ることができて、すごく嬉しいです」

 私の愛想笑いとは比較にならない、澄司さんの眩しい笑顔に、「そうですか」と短く返答する。

 駅までは歩いて10分ほどの距離。ほかの会社の退勤時間も相まってか、歩道には帰り人が適度に歩いており、すれ違う人がそろって私たちを見た。

(澄司さんは背が高いだけに、異様に目立つよね。しかも芸能人並のイケメン。そんな人の隣に私がいることは、違和感しかないだろうな)

「笑美さんの好きな食べ物ってなんですか?」

「好きな食べ物?」

 唐突な質問に隣を仰ぎみたら、エメラルドグリーンの瞳を細めながら、私に向かって嬉しそうに語りかける。

「僕はカレーが好きなんです。店によってカレーの風味や使われているスパイスが、全然違うんですよ。あちこち食べ歩きするのが、結構楽しくて」

 ここまで説明されたゆえに、私が答えないわけにはいかないので、視線を前に戻しつつ口を開いた。

「私は唐揚げが好きです」

「……から揚げ美味しいですよね。もも肉を唐揚げしたものはジューシーさがあっていいですけど、胸肉を揚げたものも肉の弾力や旨みを感じられますし。どっちも甲乙つけがたいかな」

 ここまでテンポよく会話をしていたのに、妙な間があったことに焦って、頭に浮かんだものを告げてしまう。

「チーズささ身の揚げたものも好きです」

 ポツリと呟いたひとことに、澄司さんが私の顔をいきなり覗き込む。

「それに大葉がトッピングされていたら、また風味が変わって美味しいですよね」

 サラサラの髪が夕日を浴びて、金髪のように光り輝いた。すごく綺麗だと思うけれど、ときめきを感じることはない。

「……はい。ムダにお酒が進んじゃいます」

 顎を引いて間近にある顔と距離をとったら、澄司さんは満面の笑みのまま元に戻す。

「笑美さんはいける口なんですね。今度一緒に飲みに行きませんか?」

 お腹が空いていたせいで、思わず会話に食いついてしまったことに気がつき、しまったと思った。

「そうですね……。そのうちにでも」

(自分から食事ネタを提供したら、誘ってくださいと言ってるようなものじゃない!)

「から揚げの美味しいお店を探しておきます。楽しみにしていてください」

 そのあとも私のプライベートを探るような質問が続き、うまくかわしている内に駅に到着した。

「澄司さん、ここまでありがとうございました」

 ぺこりとおじきをして、そのまま帰ろうとしたら、「ご自宅まで送ります」と告げられてしまった。