佐々木が俯くとメガネのレンズが蛍光灯の光を受けて、うまいこと感情を隠す。斎藤は過去の出来事と現在のことを考えつつ、重たい口を開いた。

「まっつーには、きちんと告白してるんですよね?」

「ああ。備品庫でした」

「なんで備品庫で?」

 ロマンチックの欠片もない場所でなされた告白を聞いて、松尾のことがかわいそうになった。

「そういう流れになったからだ」

 目の前でうな垂れる佐々木を見ながら、斎藤は軽いめまいを覚える。

「えっと意思の疎通はメモ用紙で、告白は備品庫ってことは、まだナニもしていないということですか?」

「松尾に言われたんだ、ちょっとずつ距離を縮める感じで付き合いたいって。元彼のことを引きずってるのを考慮して、今のところは頬にキス程度までしかいってない」

(なんだその、ピュアなお付き合いの仕方は。今の中学生よりも健全でしょうよ)

「佐々木先輩は、まっつーの頼みをきいているということですか、なるほど。じゃあ想像してみてください。これからいい感じの流れになって、まっつーとヤれるところまできました。そこはどんな場所で、どんなシチュエーションですか?」

 斎藤はあることを確かめるために、思いきって訊ねた。自分の考えが、どうか外れますようにと――。

 佐々木は親指と人差し指で眉間を摘まみ、小難しそうな表情のまま答える。

「どんなシチュエーション……。ふたりきりでたまたま残業していて、誰もいないフロアで、そんな雰囲気になったところで、はじまった感じ」

「はーい、ビンゴ! 佐々木先輩の恋愛感が、ポンコツなのがわかりました」

 斎藤は頭を抱えたまま、その場にしゃがみ込んだ。自分の中のショックを表そうにも『ポンコツ』という言葉しか、しっくりくるものがなかった。

「ポンコツって、それ酷くないか?」

 ああ、もう! と小さく呟いた斉藤は勢いよく立ち上がり、佐々木の鼻先に人差し指を突きつけながら豪語する。

「顔面偏差値最強男の考えるシチュエーションは、間違いなく一流ホテルのスイートをリザーブして、場所をしっかり確保。見晴らしのいい夜景を見ながら、まっつーを抱き寄せてからの、砂を吐くような甘い言葉の連呼により、うまいことベットインするでしょうね!」

「あ……」

 自分との違いに唖然とした佐々木に、斎藤は突きつけていた人差し指を戻して、あっけらかんと告げる。

「はじめてを会社でなんて、どこぞの安いAVの設定ですか」

「いやでも、3回くらい……」

「は? 3回も会社でシようなんて、信じられない!」

「違う、松尾を3回くらい、イかせることができたらいいなとか、思ったりして」

「いつ誰が来るかもしれない、こんな場所でヤるからということで、佐々木先輩が興奮するのはわかりますけど、たくさんまっつーをイかせたいのなら、せめてベットでお願いします!」