佐々木先輩に告白されたことが衝撃的すぎて、私はずっと拒否する言葉ばかり告げてしまった。

 相手に追いかけられてばかりだった人が、はじめて誰かを追いかける立場になったとき、まずは拒否されるかもしれないという、マイナスな感情があったはず。

(佐々木先輩はそれを乗り越えて、私に告白してくれたんだ――)

「ううっ、くっ……」

 泣かせてみたいと言った先輩が、私のせいで泣いている姿に焦りを覚える。焦らないほうがおかしい。だけどそれよりもおかしいことは、佐々木先輩が私を好きだってことだろう。正直、趣味がいいとは思えない。

「佐々木先輩、あの……」

 今まで挨拶以上の会話をかわしたことがなかった先輩。だからこそこれから相手を知るために、付き合ってみるのはアリかもしれない。そしてこのことにより、四菱商事の見合いの話を、堂々と断る理由になる!

「…………」

 鼻から息を思いっきり吸い込み、吐き出す勢いを使って喋りかける。

「佐々木先輩とお付き合いしてもいいですよ。さっき言ったように、少しずつ距離を縮めていく感じでお願いします……」

「くくっ!」

 抱きしめていた私をぽいっと放り出して、佐々木先輩はお腹を抱えながら爆笑した。大笑いする理由の見当がつかない私は、ぽかんとするしかなく――。

(近寄りがたいオーラを漂わせている大人ってイメージだったのに、こんなふうに笑ってるだけで、親近感が増していく不思議な人だな)

 傍にある棚をバシバシ叩いて、大きな体を揺さぶり、なおも爆笑を続ける佐々木先輩を見つめるしかなかった。

「佐々木先輩、笑いすぎですよ。そんなふうに笑うようなこと、私は言った覚えがないのに」

 ジト目で佐々木先輩を見上げながら呟いたら、メガネを外して涙を拭い、ふたたび吹き出す。

「佐々木先輩っ!」

「悪い悪い。間近で松尾の百面相を見ているのが、面白くてつい」

「はい?」

「それを見てるだけで、なにを考えてるのか手に取るようにわかってしまうものだから。とりあえず、付き合うことを決めてくれてありがとな」

 きちんとメガネをかけ直してから、目の前に右手を差し出されたので、導かれるように握手した。佐々木先輩の大きな手が、私の右手をぎゅっと握りしめる。

「松尾が不安にならないように、ちょっとずつ距離を縮めていけばいいんだよな?」

「束縛されるのは苦手なので……」

「それじゃあまずは、見える形で俺の気持ちを表してやる」

 佐々木先輩は、繋いだ右手をグイッと引き寄せた。

「ちょっ?」

 引っ張られた衝撃は私の体を動かすほどじゃなく、右腕のみ動かされた。黙って佐々木先輩がすることを見つめたら、手首が露にされて、脈をとるところに唇が押しつけられる。