グレーな彼女と僕のブルー

 知らず知らずのうちに首を捻っていた。

「手術をしてから半年経ったころに、目の色が変わって。その頃から右目だけに、時々灰色の影みたいなものがチラチラ視えるようになったの」

「……それが?」

「うん。あたし個人は"準備予知"って呼んでるんだけど……あらかじめ決められた行動が灰色の影として視えて、それを準備しておくことで、起こる未来を変えられるの。未来の映像も。併せて視えるから」

 改めて聞くと、なんとも不可解な現象だと思った。

「手術をしたからそうなったのか? それとも、蜂に刺されたから?」

「分からない。去年、学校に行くのが嫌な時期があって、サボってるあいだに調べたんだけど。右目の角膜を提供してくれたドナーの名前なんかは分かったんだけど、そんな特殊な能力があったかどうかまでは調べられなかったし、蜂毒が影響したかどうかも分からない。
 ただはっきりしてるのは、術後から半年して変わったってことぐらい……」

「……そっか」

 そこでふと、紗里が以前していた蜂の話を思い出した。

 ーー「やがて来る災いを察知してそれに備えているなんて、蜂って凄いよね」

 あれはきっと自分自身を重ね合わせて言っていたんだ。

 僕は一旦視線を下げて、紗里が書いたノートを見つめた。

「さっき学校をサボってた時期があったって言ってたけど、それが理由で留年したのか?」