グレーな彼女と僕のブルー

 ……俺、なにかしたっけ?

 考えて答えが出るわけもなく、朝の風景を見るだけに徹した。

 そろそろ横断歩道だ。信号機に目を向けると、ちょうど緑の人型がチカチカと点滅し、赤に変わったところだった。向こう側から間に合ってもいない自転車が慌てて渡ってくる。

 僕は憂いを含んだため息を落とした。

 信号ひとつ分、また無言が続くわけだが、そもそも僕は何も話さない方が気が楽で平気だったはずだ。むしろその方が心地よかったはずなんだ。

 それなのに何でこんなに落ち着かないんだろう?

 霧の晴れない気持ち悪さに首を捻っていると、さっき信号無視をして渡りきった自転車が猛スピードで紗里に迫っていた。

「っおい、紗里!」

 俯きがちにぼんやりする彼女に慌てて声を掛け、その腕を引いた。

 自転車はそのままの勢いで通り過ぎて行き、紗里の髪がふわりと突風でなびいた。

「……ありがと、恭ちゃん。て言うか……初めて名前で呼んでくれたね?」

「……そうだっけ?」

 紗里が幾らか嬉しそうに微笑むので、気恥ずかしくて視線を逸らす。引いた腕もパッと解放した。