グレーな彼女と僕のブルー

 なだめることに疲れた母親が、遂には子供に背を向けて遠ざかって行く。男の子の地団駄は激しくなり、終いには大きな声で泣き始めた。

 若干の怒りと恥辱からか母親が振り返った時、紗里が動き出した。

「ねぇねぇ。もしかしてこれボクの?」

「……っ、え?」

 泣き顔の男の子が紗里の声に反応し、ピタリと動きを止めた。

 紗里が差し出していた物は先ほど駄菓子屋で買ったラムネ菓子だった。

「あっ、うん! ぼくの! 落としたの!」

 嬉しそうにお菓子を受け取る男の子に優しい笑みを向け、紗里は「バイバイ」と手を振っていた。

 少し離れたところから母親が頭を下げている。男の子は嬉しそうに母親に駆け寄っていた。

「……それ、さっき買ったやつじゃ?」

 訳が分からずに指を差すと、「あれでいいんだよ」と返ってきた。

「あのまま地団駄を踏ませていたら危ないから」

 そう言って彼女はうず高く盛られたトマト缶の山を一瞥した。

 ……え。

「待たせてごめんね、精算しにいこ?」

レジに足を向けた紗里を、遅れて追いかけた。


 *

 帰宅してからケーキの仕上げを紗里が担当し、僕はサラダを盛りつけた。