グレーな彼女と僕のブルー

 必要な物がそろったのでレジに向かおうとするのだが、紗里がある一点を見つめて足を止めていた。

 あ。まただ……。

 さっき駄菓子屋を見てやっていたように、左目を手で覆っている。

 何なんだろう?

 紗里の視線の先には小さな男の子がいた。精肉店の近くで駄々をこねる、五歳ぐらいの男の子だ。

「アレがないとヤなのー!」

「そんなこと言ってもあっくん、落としたんでしょ?」

 困り果てた母親が懸命に子供をなだめている。

「もう、分かったから。ママのお買い物が終わったらまた買いに行こうね、それまで待てる?」

「ヤァだぁ〜っ!」

 男の子は床に背を付けて本格的に地団駄を始めた。

「っちょ、あっくん。お店では静かにしようねー」

 周りからの視線が気になるのか、母親が焦っている。あまり見るのも悪いなと思い、紗里に声をかけて立ち去ろうと思った。

「……なぁ、」

 紗里は男の子のすぐ近くに盛られた缶詰めの山を睨んでいた。

 なんだ?

「っもう、それじゃあママはお買い物を済ませてくるからそこで待ってるのよ!」