誠のようにメッセージツールのIDを交換していたら呼び出すこともできるのだが、如何せん関わり合うことを拒否していたので敢えて聞いてこなかった。興味もなかった。

 廊下に突っ立ったまま、窓際の壁に背中を預けた。ポケットからスマホを取り出す。朝のホームルームが始まるまでの時間を確認して、また小さくため息をこぼした。

「なにやってるの? 恭ちゃん」

 紗里だ。

 急に隣りから話しかけられて、ややびっくりするが。僕は彼女を見て覚悟を決めた。

「ちょっと、話あるんだけど……」

「なに?」

「……や、ここではちょっと」

 たったひとこと、同居のことは秘密にしてほしいと言うだけなのだが、同級生が右往左往するこの廊下自体が、内緒話をするのにそぐわない場所だ。

 僕は紗里の目から逃げるように視線を泳がせた。

「分かった。じゃあ付いて来て?」

「え……」

 クルリと踵を返したことで紗里のスカートが空気を含んでふわっと揺れる。そのままずんずん歩きだす小柄な背を見て、慌ててそれに続いた。

 紗里を追いかけて着いた場所は、一度も入ったことのない空き教室だった。