「なんで一年なの、って。あたしに聞かないんだね?」

 ドキッと心臓が跳ねた。何となく聞いちゃいけないような気がしていたので、隣りの彼女をつい見てしまった。

 僅かに狼狽える僕を見透かすような瞳で、じぃっと見上げてくる。「別に」と答えるので精一杯だった。

「実は去年のぶん、ダブっちゃってさ……」

 紗里は相変わらずのマイペースで聞いてもいないことを口にする。が、その理由については話さなかった。

 病気か何か、かな……?

 素行が悪くて進級できなかったというのはまず考えられないので、体調不良か何かで出席日数が足りなかったとか、そういう理由かなと考えた。

 それか成績に問題があって落第点だった、とか?

 どんな理由があるにせよ、子供の頃の紗里からは想像もつかない。

「あのね、恭ちゃん」

 眉を寄せながら首を捻っていると、弱々しい呟きがかろうじて耳に届いた。

「子供の頃のこと……ごめんね」

 え……。

 神妙な顔つきで足下を見つめた紗里が、躊躇いがちに僕を見上げる。肩から掛けた通学鞄の持ち手をぎゅっと握りしめている。

「本当は嫌だったんだよね、女の子の格好するの」

「ぅえっ!」