「赤城さんを好きになる前まではさ。けっこうマジな葛藤みたいなやつがあってしんどかったんだけど。……だからこそ、赤城さんに一目惚れして浮かれてた。けど今思えば……何か違うんだよな」

「違う……?」

「赤城さんのこと、本当に好きだったかどうかが、分かんねぇ」

 え。

「そう……なんだ?」

 誠が言っていることはどことなく紗里の言葉と似ていた。中学のころ、古賀先輩と付き合っていた紗里は"やっぱり違うな"と思って、別れたからだ。

「ところで、紗里を好きになる前の葛藤って」

「っああ、ああ、俺の話はいいんだよ!」

「え……」

 誠は焦った素振りで手を振り、「それよりさ」と話を戻した。

「赤城さんと時々一緒に帰ってるじゃん? 手ぇ繋いで歩いてるの見たってやつもいるし」

「それはあいつが……っ」と今度は僕が焦る番だ。

「……いつも、手を繋いでくるから」

 語尾は尻すぼみになり、僕は目を泳がせる。誠がハハッと吹き出した。

「だだ漏れてるってわけかぁ〜」

「何がだよ」

「おまえへの気持ちだよ。こう、抑えきれないんだろうなぁ〜、赤城さん」

 僕の気持ちはともかく、紗里のことまで知り尽くしたような誠の口調に、自然と眉を寄せてしまう。無言で首を捻っていると、誠は呆れた目で嘆息をもらした。