グレーな彼女と僕のブルー

 なので紗里は影を見た当初、刑事に「明日は車で通勤しないで」とお願いしたそうだが、刑事はそれを聞き入れず現行犯で逮捕する道を選んだそうだ。

 犯罪抑止を考えるなら、その方がいいのだろう。

 人の良さそうな刑事を思い出し、さっきの言葉が自然と浮かび上がった。

「あのさ。さっき刑事が紗里に言ってたことなんだけど。"あの話"ってなに?」

「あの話?」

 紗里は僕を見上げて、キョトンとまばたきをした。

「真面目に考えてね、っておまえに言ってただろ?」

「ああ〜、アレね」

 八の字眉毛で困ったふうに笑い、紗里は足元を見つめた。

「警察官にならないかって誘われたの」

 え。

「……へぇ〜」

 なるほど。事前に事故や事件を未然に防げるんだから、確かに警察にとっては便利な能力だ。

「けど、あたしはならないよ? 既に断ってあるし」

「え、そうなんだ。なんで?」

 んふふ、と笑ってから、彼女特有の意味深な瞳を向けられる。

「他になりたいものがあるから」

「ふぅん……」

 夢とか、そういう話ってわけか。

 駅構内へたどり着き、ふとテレビの音声を耳で拾う。