グレーな彼女と僕のブルー

 いきなり抱きつかれたことで、目の前がチカチカとなる。言うまでもなく頬はカッと熱くなり、言葉が出てこない。

 柔らかい感触と甘い匂いで、彼女以外の存在が瞬時にかき消されてしまう。

 仕方なく僕は棒立ちで彼女を見下ろす羽目になった。太鼓のような心音は、多分モロバレだろう。

「迷惑かけてすまなかったね?」

 気付いた時には、呼び出すつもりでいた男性刑事がすぐそばに立っていた。僕にしがみついて離れない紗里を見て、クク、と笑っている。

 さっきの男は別の屈強な警官二人に挟まれ、警察署内へ入って行った。

「い、いえ。かなり焦りましたけど、だ、大丈夫です」

 とりあえず紗里を引っぺがして、冷静に答えた。紗里は懲りずに僕の腕にしがみつき、またくっ付いてきた。

 諦めて今度は無視をした。

「あの、こいつの疑いは晴れたんですか?」

「うん?」

 急な質問だったせいか、刑事は眉を持ち上げて僕を注視した。

「今日僕なりに調べたんです。あの火事の火元は隣人宅からだったし、紗里のボヤがきっかけで燃えたわけじゃない。ただ紗里は僕にイタズラするつもりで傘を燃やしただけです。犯罪には一切関わってません」