グレーな彼女と僕のブルー

 イライラが募り、僕はグッと奥歯を噛み締めた。

 このまま逃走なんかさせない。絶対にここで捕まえてもらう!

 駐車場に続く階段に差し掛かり、僕は俯いた。目と鼻の先にナイフの刃が光っている。切れ味の良さそうな凶器に触れそうで触れない、ギリギリのラインだ。

 ここがいい、この場所が!

 僕は覚悟を決めて思い切り後ろへ、頭を振った。

「っんがッ!?」

 手応えはバッチリだった。

 丁度良い位置に僕の頭突きが入ったようで、男は体勢を崩して数段を転げ落ちた。そのまま顔を覆って(うずくま)っている。キン、と甲高い音を鳴らし、ナイフが地面にぶつかって階段の二段目に落ちた。

「被疑者確保ーーっ!!」

 短距離選手のスタートダッシュの如く、刑事たちが猛然と走り寄ってきて、男を取り押さえていた。後ろ手にされた両手にはしっかりと手錠がはまっている。

「キミ、ナイスだったわ。お手柄よ」

「……はぁ」

 昨日見た女性の刑事が僕を保護するために走り寄った。肩をポンとされて思わず脱力する。

 しかしながら、ホッとしたのも束の間で。

 すぐあとに泣き顔の紗里が走ってきて、なりふり構わず僕に飛び込んだ。

 っいい!??

「っ恭ちゃん! 良かった!」