グレーな彼女と僕のブルー

 声を震わせ、唇をへの字に曲げていた。紗里が僕の身を案じて今にも泣き出しそうになっている。

 ……紗里。

 途端に心臓の奥がキュッと絞られるような痛みが走った。腹の底からはどす黒い感情が生まれた。男と僕の足は、一歩一歩、ガラス扉へと近付いていく。

「いいか!? 全員そこから一歩も動くなよッ!?」

 男が僕の首をきつく締めた。苦しい。

 このまま外へ出て、それからどうなるんだ?

 僕は男がその後取る行動を予想した。見たところ、この男はかなりテンパっている。

 外へ出た途端、僕を突き飛ばしてそのまま逃走しようと考えているのか? それで逃げ切れると本当に思っているのか?

 男にとってはここが敵陣なのは間違いない。それなのにたった一本のナイフを使って脅し、僕という人質を取る事でこの場を回避しようとしている。あまりにも利己的で杜撰(ずさん)だ。

 男が署内の刑事たちを牽制しながら、ついにはガラス扉へと到達し、玄関を抜けた。

 おそらく僕はこのまま駐車場まで引きずられて、そこで解放される。男は逃走を図るが、もしもまた逃げ切れないと思ったら、ナイフを振りかざし別の誰かを人質に取る、そんな流れが手に取るように予想できた。

 ふざけんな……っ!