グレーな彼女と僕のブルー

 二人のうちのひとり、人の良さそうな男性が近付いて来る。笑みを浮かべながら、胸ポケットから何かを出して見せてきた。紗里や大和がドラマなんかで見ていた警察手帳だ。

「赤城 紗里さん、だね。ちょっと二、三伺いたいことがあるんだ、署までご同行願えるかな?」

 紗里は男性の刑事を見上げ、大人しく顎を引いた。

「けど、少しだけ待って下さい。彼に言っておきたいことがあるので」

「……分かった」

 近付いてきた男性は車のそばで待機している女性刑事に目配せし、少しだけ僕たちから遠ざかった。

「ごめんね、恭ちゃん」

 湿り気を帯びた声で紗里が謝った。

「いや、なんでだよ……っ、なんで謝るんだよ」

 じわじわと暗い想像が広がり、嫌な予感がにじり寄っていた。

「なんでおまえんとこに、刑事が来るんだよ??」

 目頭が熱くなった。昂る感情で鼻の奥がツンと痛くなり、視界が少しだけぼやけた。

 紗里が悲しそうに眉を下げた。僕を見つめたまま「あたしは」と口にする。

 果たして紗里は、そうであって欲しくない予想を、見事に的中させた。

「……恭ちゃんの家で火をつけたから」

 ***