父親という存在を感じさせないのは、どうやら赤城家も一緒のようだった。

 僕の父は、まだ僕が幼稚園に通っていた頃に事故で亡くなった。雨の日の交通事故だったと母からは聞いている。

 それからは母が女手ひとつで僕を育ててくれた。

 紗代子叔母さんの援助もあったらしい。それに、遠方に住んでいるせいで年に一度ぐらいしか会わないけれど、お祖父ちゃんお祖母ちゃんも随分と気にかけて助けてくれたそうだ。

 僕の父は他界して会えないが、従姉弟たちのお父さんは現在進行形で単身赴任中らしく、ひと月に一度の頻度でしか帰って来れないとのことだ。

 そういう事情もあって、突然の同居を受け入れてもらえたらしい。

 母は紗代子叔母さんとそんな会話をしながら食事をし、「旦那さんが帰って来るまでに出て行けたらいいんだけど……」と困ったように眉を寄せていた。


 *

『どうだ、恭介。立派な家だろう?』

 トラックから降りた父が僕を抱っこして笑みを浮かべていた。力強い腕に(かか)えられて見上げた家は、広い庭を備えた一軒家だった。

『お母さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?』

『……うん』