グレーな彼女と僕のブルー

「足はもう大丈夫そうだな?」

 背後に立った古賀先輩がコソッと話しかけてきた。

「はい。休んでたおかげで全快です」

「そうか。なら、坂下。おまえ俺と勝負するか?」

「……はい?」

「勿論、俺は先輩だから一周多く走るつもりだ。怪我で試合に出れなかったんだから、その雰囲気だけでも味合わせてやる。どうだ?」

 どうだ、と言われても。

 よく分からない理由だったが、単純に勝負を持ちかけられているのだ。これを機に、生意気な後輩を打ち負かそうというわけだ。

 そう思ったら腹の底から小さな怒りが湧いてきて、僕は眉を寄せた。

「良いですよ。けど、ハンデは必要ないです。同じ7周半でお願いします」

 先輩の提案を真顔で受け入れると、彼はフンと鼻を鳴らし、「生意気なやつ」と言って片方だけ口角を上げる。

「位置についてー、よーい、」

 ピィー、と笛が鳴り、一斉にスタートを切った。ザッザッと皆がトラックを蹴り、砂埃が舞い上がる。

 僕は真っ直ぐ前を見据えながら、試合前の練習のペースを思い出していた。鼻から二回吸って、二回口から吐く呼吸法に専念する。