もとより、噂の出どころを突き止める気などさらさらなかった。

 二年の先輩から聞いたと言ったクラスの男子の言葉を思えば、紗里のことを知っている先輩の誰かに、僕と紗里が同じ家に帰るのを目撃されたとかそんなところだろう。

 高校生男女が同居している、ーーこういう噂ほど、あっという間に広がるものなんだ。

 肯定も否定もできずにそのまま五時間目を迎え、そのあとの休み時間、僕は逃げるように教室を出た。

「恭介っ、同居ってなんでなんで?」

「赤城さんって家ではどんな感じ?」

 が、しかし。走ることも、まともに歩くこともままならない僕は、出た先の廊下であっさりとクラスの男子に捕まってしまった。

「あ、いや。……ちょっと。家庭の事情で」

 そう言ったところで、まず紗里とは従姉弟で親戚関係にあることを伝えるべきかと頭を回転させる。

「いや、実はその赤城さんとは」

「あ! 恭ちゃん!」

 教室の前の廊下で男女数人に囲まれているところを、今一番見られたくないやつに目撃されてしまった。

「"恭ちゃん"……?」

 都合の悪いデジャヴについ頭を抱えた。