《今日午前十一時ごろ、陸上競技大会の開催地に刃物を持った男が乱入し、場内は一時騒然となりました。切り付けられたことで選手の数人が怪我をし、大会は中止となった模様です》

「……え」

 乾いた吐息と共に声がこぼれ落ちていた。

 アナウンサーが告げた十一時ごろはちょうど僕が出るはずだった男子五千メートルが始まる時間帯だ。

 僕が試合に出ていたら、この通り魔とも思える男に切り付けられていたということか……?

 そう考えたら怖くなり、ブルブルと手が震えていた。

 青ざめた僕の手を取り「大丈夫だよ」と紗里が慰めるよう言った。

「恭ちゃんにはこんな不条理は起きていないから」

「……うん」

 果たして紗里が視た映像はどんなものだったのか。

 試合に出た僕が軽く切り付けられるのか、それとも刺されるのか。とにかく命に関わる危機が迫っていたのかもしれない。

 彼女が先回りして僕を足止めしたから、今こうして捻挫だけで済んでいるのだ。

 そう思うと、改めて紗里の右目に畏敬の念が湧く。"準備予知"という能力がいかに凄いものかを誇示された気がした。

 そういえば誠はどうだったんだろう……?

 ふと試合に出るはずだった誠のことを思い出した。