「ユウ、俺の何がいけないと思う?」
「パーフェクト人間だと思ってるところ」
「実際そうだろ」
「そいうところ」
「ツミキさー、北条がお前の事好きだって感じるか?」
「大切にしてくれてるのは感じてる」
「どんな時?」
「あいつは俺を傷つけない」
「あんなしゃべり方されて傷ついてないんだ」
「昔からだ。変わってない」
「お前のポジティブさに問題ありだな」
「あっ、そういや担任に呼ばれてたんだった。職員室行ってくるわ」

そう言ってツミキは走って行った。廊下にひとり、裕也は取り残される。どこまでもマイペースなツミキが、珍しく自信なさげだった。そこに偶然、旧館に行くであろう八雲が通る。何か知っているかもしれないと、八雲に声をかけた。

結果は惨敗。八雲の鉄壁のディフェンスに、裕也は両手を上げるしかなかった。どう考えても八雲には脈なしだ。ツミキはなぜ大切にされてると思うのだろうか。裕也は悩む。だが、なぜ自分が凸凹コンビの先が見えない恋愛につて悩む必要があるのか、悩むだけ無駄だと、すぐに考えるのを止めた。

一方ツミキは職員室で、担任と生徒会について話をしていた。担任が言うには、生徒会の2年生の1人が訳あって生徒会の活動ができなくなった。そこで2年生から候補を見つけるつもりでいたが、生徒会長直々に、ツミキに指名があったのだということだ。

「なんで俺なんですかね」
「城咲君、それは先生にもわからない」

担任は、きっぱりとさっぱりと答えた。

「とにかく、返事は城咲君から、生徒会長にしてくれ」
「えーっ!先生、間に入ってくれないんですか?」
「先生は、生徒会長が苦手だ」

返事だけは頼もしげな担任に、頭を悩ませる。

(確か今の生徒会長って。。。)
(仕方ない。放課後、生徒会室に行くか)

ツミキは頭を抱えて職員室を出た。次の授業のチャイムが鳴る。足早に、教室に戻りながら八雲のことを思う。自制心を失ってしまった自分に、少しばかり反省していた。いい夫婦の日と、自分で言葉に出してしまって、その言葉に舞い上がり、どうしようもなく大切な幼馴染を自分のものにしかたった。

八雲にとって、唯一無二の大切なものになりたかった。大切にしたい。大切にされたい。その二つの思いがツミキの冷静な判断を狂わせた。幼き日より、ストレートな言葉と態度で、人生を謳歌してきたツミキであるが、成長とともに自分の感情が複雑になってきているのがわかっていた。

高校1年生になってそれは顕著に表れた。どうにか今までと変わらない自分でいようと必死だった。しかし、あの時ばかりは抑えられなかった。八雲が抵抗しないことをいいことに、両手を八雲から離したくなかった。ため息が一つ。ツミキの思いは、冬の気温とはまったく正反対のものであった。


「失礼します」

放課後、ツミキは生徒会室へ顔を出した。どうやって断ろうか考えたが、考えてもいい案は出ず、出たとこ勝負だと腹をくくった。生徒会室には、3人座っていた。

「誰?」
「あー、2年の代わりのやつだろ」
「よろしく。入って。もうすぐ生徒会長くるから」
「あの、その件ですが、断りにきたんですけど」
「「「それは会長に直接言え」」」

3人の声が見事に重なった。ツミキは居心地の悪さを感じながら、生徒会室の隅の方のパイプいすに座った。その直後、ものすごい勢いでドアが開いた。

バンッッッッッ!!!!!
「今日もいい天気ねー、久我、来年の卒業式の流れ、先生に確認した?」
「相模、2学期の報告書まとめられてる?」
「さや、クリスマスの飾りつけ決まってるの?」

入ってくるなり、その女生徒はマシンガンのように話しまくった。3人は慣れているのか、そのペースに乱されることなく、淡々と返事を返し、それぞれ生徒会室を後にした。ツミキと女生徒、2人っきりになった。

「城咲くんね。知ってると思うけど、ワタシが生徒会長の向口綾珂(むこうぐちりょうか)よ」
「はい。知ってます」
「じゃ、今日から放課後はここで生徒会の活動をしてもらうわ。何かわからないことがあったら、あの三人に聞きなさい。優秀だから」
「あの、俺、この話、断りに来たんですけど」
「あなたは断れないわ」
「いや、他の誰か探して下さい」
「理由は?」
「放課後、やることあるんで」
「部活は何も入ってないでしょ」
「それでも…急に困ります」
「あの本の塔のラプンツェルと一緒にいたいんでしょ」
「え?!…」
「ワタシが何も知らないとでも?舐められたものね」
「じゃ、わかってるんならそいう理由なんで。失礼しました」

ツミキは生徒会室を出ようとした。感じたことのない焦り、不安、寒気を抱えていた。だが、あっちがはっきり言うなら、こっちもうやむやにせずに、堂々と答えていればいい。

「待ちなさい。あなたはもう生徒会の一員ですからね」
「だから、断るって言ってるでしょ」
「無理よ、だって、ワタシあなたが好きなのよ」
「それも関係ないでしょ」
「さすが告白しても、驚かないのね」
「…」
「ちなみにあなたもワタシのことを好きになるわ」
「なにを根拠に」
「ラプンツェルには運命の人がいる、あなたじゃなくてね」
「はぁ?!そんなわけありません」
「これ以上知りたいなら、生徒会にいることね。ワタシ、用事あるから、じゃね」

モンスターと遭遇したと思ったら、ついでに嵐も来た。ツミキは立ち向かうすべもなく、誰もいない生徒会室に立ち尽くしていた。

つづく