「はい！　父さんのコーヒー〜」

「お！　いい香りだな」

父が宣のコーヒーに気を取られている隙に、母が向かい側から囁くような声で言った。

「泉？　1人だと心配だし、泊まってきていいわよ？」

『どこに』とはあえて言わないけど、これって確実に京のはなれにだよね？

「……わかった」

昨日の恋人孝行はなんだったんだ。
ま、いいか。サプライズって事で。
京、喜ぶだろうな……。




父の車が快適に高速道路を走り出すころには、私は三列目を独占し、眠りについていた。

昨日は結局、ちゃんと送ってはもらったものの午前様で、1週間の仕事の疲れと、恋人との逢瀬で身体は疲れ切っていた。

家族旅行で、父の車だという安心感から、目的地の名古屋に着くまで、すっかり熟睡してしまった。