大学在学中、私は学芸員を目指していた。
小さい頃から、展覧会などで訪れる美術館の静謐な独自の雰囲気が好きで、ただ資格を取るだけでなく、本当に博物館や美術館の学芸員になりたかったのだ。

学芸員という職は、定年まで辞めることはないとされている離職率の低い職だ。新設の美術館が出来るか、定年を迎え引退される方が出るのを待つか…。つまりはタイミングの問題でもあるのだ。希望するからと言って、なれるわけではない。

私は、博物館学の教授のゼミに入り、半ば押しかけ秘書のように教授のお手伝いをしながら、学芸員の募集が出るのを待った。勤務地がうんと遠くであっても、空きがあれば試験を受けるつもりだった。
しかし、待てども待てども募集の知らせは来ない。教授も、ツテのあるところは全て聞いてくださった。

そして最終的に大学4年の秋、今年度の募集はないだろう、と教授に告げられることになったのだ。

仕方がない。
わかっていたことだ。
なら、方向転換をすれば良いだけ。