それから迎えたホワイトデー。

偽装恋人期間に義理チョコをもらっていたので、久しぶりに撫子と会う約束をした。
義理とはいえ、お返しは礼儀だからな。

何を買えばいいのかわからなかった俺は、とりあえずいつも母親や妹達に買っているように、菓子でも買おうと、地下鉄を降りてデパートへ向かった。

その道中、駅ナカに和小物の店が新しくオープンしていた。

小さな店だが、オープンしたてだからか、客がいっぱいいる。

しかもホワイトデー当日だ。
普段なら見向きもしないであろう、サラリーマンや男子学生の姿も見られた。

店の入り口付近の棚に、いかにも和風っぽい色の、丸みのあるマグカップが並んでいた。

マグカップとしては珍しい色合いのものが多い。
コーナーのポップを見ると《日本の伝統色マグ》と書いている。色の種類は沢山ある。

その中の一つに、俺は目を惹かれた。
落ち着いたピンク色。あの成人式で撫子が着ていた着物の色だ。

取り上げてみると
『撫子色』
と書いてある。

そこで初めて、あのピンク色が撫子色という色だったのだと気付いたのだ。