始業式が終わったので、後はクラスでのホームルームと大掃除を行い、帰宅するだけだ。帰宅部の私には直接関係ないが、明日から2日間に渡って実施される実力テストのために、部活動もないようだった。
 
 大掃除はいつものように、出席番号順の班で掃除場所を振り分けられた。竜生くんと私がいる班は図書室の前の廊下と階段だ。ほうきで埃を集めていると、「今日一緒に帰ろ」とちりとりを片手に竜生くんがやって来る。ちりとりを持ってる姿もかっこいいって、本当に何事なんだろ。

「やったぁ!部活ないなら、私も一緒に帰りたいって思ってた!」

 亜美ちゃんへ事前に「今日竜生くんと帰るかも」と伝えていたぐらいには期待していたのだ。
私が手放しで喜んでいる姿を見て、竜生くんも嬉しそうに笑う。なんだか子供みたいに思われていそうで、「さ、掃除頑張ろうね」だなんて急に態度を変えたものだから、竜生くんは呆気に取られた顔をしていた。



 ホームルームが終わると、亜美ちゃんと竜生くんが同時に私の所へやって来た。竜生くんの姿を確認した亜美ちゃんは「私、先に帰るね」とだけ告げて教室を後にする。お互いに視線も合わせない、挨拶も交わさないところを見て、本当に仲良くないんだな、と思う。
 だけど、真面目で誰に対しても平等に接し、相手を敬う心まで持っている竜生くんと亜美ちゃんが、いくら苦手だからと、こんな風にあからさまに避けたりするだろうか。なんだか逆にお互いを意識しているような……私はそこまで考えて、いけない思考に陥っていることに気付く。
 こんな風に疑心暗鬼になるのはよくない。自分の心の中で勝手に育てた不安で、2人のことを勘ぐったりしたくないのだ。どうしても気になるなら、直接聞けばいい話じゃないか。

「ごめん、お待たせ!帰ろ」

 明るく笑いかければ「よし、帰ろうか」と手を差し出された。こ、これは……やっぱり竜生くんは天然なのかもしれない。さすがに校内で手は繋げないよ。
 躊躇した私に気づいた竜生くんは「あ、ごめん。さすがに恥ずかしいか」とバツが悪そうに頬を掻いた。


 駐輪場で隣に並んだ自転車の荷台に、それぞれ通学鞄をくくりつけた。

「そういや、次の学活の時間に後期の委員会決めるだろ?美琴、何か入るの?」

 自転車を駐輪場の出口まで押しながら、竜生くんが聞いてきた内容について考える。正直、委員会は面倒そうだ。
 うーん、と悩みながら「竜生くんは図書委員続けるの?」と話を振れば「だな。続けられるなら」と即答である。竜生くんと同じ図書委員なら楽しそうだな、と思うが、付き合ってる2人が同じ委員会ってなんだかな、と思わないでもない。 
 立候補するにもあからさますぎて、色々な方面から反感を買ってしまいそうだ。それに純粋に本が好きな竜生くんのことを邪魔してしまいそうで、そこも気が引ける。
 付き合ったらなにをするにも一緒がいいと思うんだろうな、と漠然と考えていたが、どうやらそうでもないらしい。ずっと一緒にいたい。そのためにはずっと一緒にいちゃダメなんだろう。つまり、一人の時間も大切だということだ。

「私が入るとしたら文化委員かなぁ」
「後期の文化委員って、文化祭の運営とかだろ?やりがいありそうだよな!」

 軽い気持ちで言ったのだが、竜生くんが思ったより賛成してくれて満更でもない気持ちがむくむくと現れる。
 幸い?私は帰宅部で、部活動を行なっている子より余裕があるのだ。高校生活でなにか一つでもやり遂げたことが出来たなら、自信にも繋がりそうだしなぁ。うん!文化委員、いいかも!

 単純な私は、竜生くんと学校の裏手の坂を下る頃には、俄然やる気になっていたのだ。