猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

私は茫然とする。

何がなんだか分からない。

でも、従業員専用の入り口から入って来たって事は……。

「……アールが不機嫌な原因は、あの方なんです」

「へ!?」

三毛さんにコソッと耳打ちされ、我に返る。

「丁度、一週間前位ですかね。従業員募集の貼り紙を見て面接にいらした方なんです」

「一週間前……」

私の仕事が忙しくなり出した頃だ。

「紅茶がお好きと言う事だったので、一昨日から来ていただいているんです。……でも、アールはなんだか気に入らないみたいで」

三毛さんがチラッとアールに視線を向ける。つられて私もアールを見ると、変わらずこちらに背を向けて寝ていた。

「あ、いい方なんですよ!好きと言っていただけあって紅茶に詳しいし、接客も問題ないですし。それに――」

三毛さんが何かを言っているけど、全く頭に入って来ない。

(もう、従業員雇ったんだ……)

遅かった。

(マジでか……)

しかも、残像で思い出して見ると結構美人だった気がする。

(なんか、めちゃくちゃ嫌な予感が……)

「実森さん!」

「はいぃ!?」

ポンッと肩を叩かれて、飛び上がった。

「いや、あの……ミルクティー、淹りましたよ?」

「へ?……ああ!い、頂きます!」

私はあわあわとミルクティーを掴み、何を思ったのかグイっとあおる様に飲んだ。

「あちちちっ!」

淹れたばかりの紅茶をそんな飲み方したら熱いに決まっているのに、考えなしに口に含んでしまってちょっと火傷をしてしまう。

「だ、大丈夫ですか!?」

三毛さんが、お冷を注いで渡してくれる。

「あ、ありがとうございます……」

それを受け取り、一口飲んだ。

少し舌がヒリヒリする。

「慌てないで下さいね」

三毛さんが、ふぅ……と溜め息を吐く。

「すみません……」

気を取り直して、よく冷ましてミルクティーを飲んだ。

いつもと同じ、ホッとする味なんだけど……。

色々ショックな事があり過ぎて、今日のミルクティーは少し渋く感じた。