プライバシーという一線を引かないといけないと思ったから。

キスした理由だって有耶無耶なままだし
考えれば考えるほど
燈冴くんがわからなくなる。

もし本当に燈冴くんの人生を
わたしの面倒を見るために潰してしまっているのなら、これからはどうすればいいんだろう。

元宮さんの気持ちを受け入れたら?

それならその方が
彼にとっては幸せなんじゃーーーーー




「大丈夫ですか?」

「え…」

運転中の燈冴くんの声に驚き俯いていた顔を上げると、ルームミラー越しに目が合ってしまった。

色を持たないその瞳は
まるで何かを知っているかのように見据えていて
大丈夫、と視線を逸らしても
この人に嘘も誤魔化しも通用しない。

「元気がないようにお見受けしますが
 何かありましたか?」

「それは…」

「もしかして先程の方と、何か?」

燈冴くんの察しが良いのは知ってる。
だからすぐにバレる事も。

「たいした事じゃないの…
 だから燈冴くんは気にしないで。」

正直に『はい』なんて答えられないし
曖昧な返事だけど精一杯に笑顔を作ってみても
それでも『やはりそうなんですね』と
彼にはやっぱりお見通し。


もう本当に何も言えない。
これは燈冴くんが関係する話だから。


わたしは窓の外に視線を移したまま
家に着くのを静かに待った。