元宮さんの興奮が再燃したみたいだ。

「まさか漣さんが
 あのRipple crown(リップル クラウン)社長のご令嬢だったなんて…
 知らなかったとは言え軽々しく話をしてしまい
 さらに怪我までさせてしまうところでした!
 本当にごめんなさい!」

それを聞いて「あー…そうか」と納得。

どうやら視察と勉強で支店に出向いて
彼女には身分を明かさず挨拶もしないまま
そのまま帰ってきてしまったから
直接お店に問い合わせしたらしい。

「わたしの方こそすみません。
 アルバイトだなんて嘘をついてしまい
 しかも何も言わずに帰ってきてしまったので…」

「そんなことは全然いいんです!
 ですが…あの、彼は…」

最後まで聞いては来ないけど
“彼”とはたぶん燈冴くんのこと。
怪我を気にしているみたいで
申し訳なさそうにシュンと眉を下げている。

「怪我は…大丈夫。
 打撲…だけ、だったから」

わたしは少し、嘘をついた。

これ以上この人が自分を責めて気に病んで欲しくなくて「そうしなきゃ」と咄嗟に思ったから。

それと…無性に嫌だった。
燈冴くんに関わって欲しくないなんて思う自分は
ズルいのかもしれない。

「そうなんですね!
 骨折とかだったらどうしようかと思いましたが
 少し安心しました」

「う、うん…そうだよね」

脱臼が無事とは言い切れないけれど
あとには引けない。