スッと伸びてきた彼の手は
わたしの頬に添えるように触れ
優しく顔を上に向けられる。

「忘れないでください。
 俺はいつだって
 緋奈星さまを想っています」


え…――



近付いてくる燈冴くんの顔に、唇に
ただただ呆然と立ちすくみ
捉えられた視線を外せない。



キス…される?
どうして燈冴くんがわたしに…?



呼吸を忘れるほどの緊張感と
何が起きようとしているのかと頭の中は混乱状態なのに、唇同士が触れるギリギリあと数センチまで迫っている。


混迷しているはずなのに
拒絶したいって思わない自分がいるのは…なぜ?


彼のキスを受け入れようとしているのは
どうしてなんだろう。




この状況下で聞こえてきた幾つもの足音に
彼の動きが止まった。



「緋奈星ッ!」

遠くから父の声がして我に返ったわたしは
フッと顔を背けて俯き燈冴くんもスッと離れていく。

警備員を連れて駆け付けた父に
燈冴くんは何事もなかったように《《事》》の詳細を説明しているけれど
わたしはそれどころじゃない。

心臓はずっとドクドクと脈を打ったみたいに速く激しく鼓動していて、何が起きようとしていたのかまだ全然整理が追い付かないんだから。





それからの事は
ほとんど記憶にない。

パーティーは強制終了となり集まった人々は解散。
わたし達も家路に着いた。

もちろん燈冴くんの顔なんて
1度も見れなった。


人が変わったかのような燈冴くん。

あなたはいったい
何を考えているの…?







 【執事でも、男に変わりはありません。終】