君の事が好きなんです―――――
視界を遮るように捕らえられてしまう彼の瞳に
わたしは目を逸らす事が出来ない。
こんなに真剣に言われるなんて…―――
「鮎沢さん…わたしは…」
「気持ちは理解しています。
わかった上で僕は諦めないんです」
どうしてそこまでして…と、疑問ばかりが頭の中を巡る。
気持ち…複雑。
「だからまた、僕は僕なりに頑張ってみます」
そう言って、スッと出された右手。
握手を、という事だけど隣では燈冴くんが眉間に皺を寄せて厳しい表情をしている。
これも…複雑。
だけど彼の想いを拒絶するわけにいかないと思い
わたしも握手を交わした。
「あ…りがとう…」
お礼も伝えて―――
お互いが一礼し、わたしと燈冴くんは鮎沢さんを乗せたタクシーを見つめ続けた。
「行っちゃったね…」
「えぇ。まったくあの人は。
余計な一言だけ呟いて帰っていきましたよ」
やはり怒っているのか呆れているのか、はぁ…と溜め息を吐いている。
だけどそこには憎しみみたいなものは感じない。
「私達も家に帰りましょうか」
「うん、そうだね」
エントランスで言葉を交わすと
燈冴くんは『車をまわしてきます』とこの場から離れようとわたしから数歩前を歩いたところで、一度その足を止めて振り返った。
「緋奈星さま」
ん?と顔を上げて目を合わせると
彼はニコリと笑顔で言う。
「今晩は、俺と一緒に寝ましょうか」
fin―――



