鮎沢社長は残ったお茶を一気に飲み干すと
ゴホン…と咳払いを1回し
まるで開き直ったように勝気に言う。

「漣社長の仰っている意味がわかりませんね。
 証拠があるわけでもあるまいし
 勝手な言い掛かりはやめて頂きたい」

確かに鮎沢社長の言うように
父がそんな切り札を持っていたなんてわたしは知らなかったし、証拠をなんて…持っているのだろうか。

「お父さん…」

何も答えない父が心配になって
思わずわたしが割って入るみたいに声を発してしまった。
あいかわらず表情1つ変えない。
そして、ようやく口を開いたけれど…

「確かに”証拠”というものはない」

「そんな…」

その一言で全部打ち砕かれたようだった。

父がそんなデタラメを言うなんて…


「漣社長、そのような適当な発言は侮辱とも受け取るぞ。
 私が不正を行ったなど証拠もないのに偉そうに。
 最初からそんなもの、あるはずがないんだ!」

鮎沢社長は声を荒げて父を非難した。
しかし言うだけ言うと満足したらしく
勝ち誇ったように自慢げに胸を張っている。

「漣社長にとって当社(うち)との関係は非常に大事なはず。
 その取引を白紙に戻すという事がどういう意味なのか、冷静に考えればわかるでしょ」

脅しとも取れる発言に
わたしが怖くなった。

これじゃ後継者なんて――



「私が後任を引き受けます」