唇が当たる僅かギリギリの距離にお互いの吐息を感じてしまい、反射的にドキッとして固まってしまった…
「緋奈星さん…」
「やめてくださいッ」
腰に回される腕の力が強くなって
ようやくわたしは自分が流されている事にハッと気が付いて拒絶しようとしたのに、それを許そうとしない彼。
「こんなとこアイツに見られると…マズイ?」
耳元で囁く鮎沢さんの声に
燈冴くんの顔が頭に浮かんだわたしは…
パシン…と
思い切り頬に平手打ちしてしまった。
「…ッ痛」
「最っ低ッ」
叩いてジンジンする手をグッと握りしめ
わたしはその場から逃げるように立ち去った。
鮎沢さんを心配してたのに
それにこんなとこ、燈冴くんに見られなくて良かったな…
”心配した”
それが、時に残酷に相手を傷つける事だって
わたしはまだ知らなかったんだ―――――――
父の不在から3日も経たない間に鮎沢社長を社内で見掛ける回数が増え、そして何度も社長室を出入りしていた。
社長の常に隣を歩く息子の芹斗さんの表情は
いつも暗い影を落として俯き加減で
わたしはどうしてもそこが引っ掛かっていたけれど……―――
「緋奈星さまの元気がないのは
また《《あの人》》の事を気にしているからですか?」
「え…」



