「さっきの電話、父からなんだよね」
珈琲を淹れるわたしに
彼は溜め息交じりに話してくれた。
「見ての通り僕の父は堅い人でね。
昔から良いように使われているんだよ」
「良いように使われてるって、そんなの…」
「婚約も社長後任の話だって
相談なんて1回もされないまま決められたんだ。
だからキミに会った時は詳細をほとんど知らなかったんだよ」
どおりで…と納得してしまった。
「断るって選択肢はなかったの?」
「そう…だね、どうせ無駄だし。
それにほら、後任となれば将来安定。
結婚相手まで見つかれば一石二鳥」
「そんなのっ
わたしは反対です!
あなたとは結婚なんてしない!」
思わず声を荒げてしまい
近くを通った社員達が驚いた様子でヒソヒソ言ってるのが視界に入って、慌てて口を押さえた。
「へぇ、そんなに彼のことが好き?」
「あ、当たり前です。
好きな人がいるのに他の人と結婚なんて
冗談じゃないです…」
「妬ける話だね」
フッと鼻で笑う鮎沢さんは
そんなことは微塵も興味がなさそうだった。
それなのに、どこか哀しそうなのは
わたしの勘違いなのかな…
「そんな頑なに拒否されると
もっと欲しくなる」
「え…」
急に彼に腕をグイッと自分の方へと引っ張られ
体制を崩したわたしは引き寄せられた腕の中へと吸い込まれていった。



