無彩色なキミに恋をして。


それから――――

”社長不在”のため会社のフォローは役員の方々と秘書の燈冴くん、そのサポートとして、来たばかりの鮎沢さん(息子)が付く事になった。

少しだけ
先が思いやられるけど…

父が不在という以外はわたしにとっては特に大きな変化が起きたわけじゃなく、通常業務の日々が続くなか鮎沢さんを見掛けたのは、ちょうど彼が喫煙所から慌てて出てきたところだった。

「はい…その件に関しては…
 はい、ですが…いえ…」

スマホを耳に当てたまま人気(ひとけ)のいない廊下の隅へと移動している。
だから急いで出てきたのかもしれない。

それにしても電話の相手はわからないけれど
あまり思わしくない内容だったみたいで
声のトーンや口調、テンションまでも落ちているのがわかった。

「はぁ…」

「どうかしました?」

「えッ、緋奈星さんッ!?」

電話を切ったタイミングで話し掛けてしまったせいで、彼は非常に驚いた様子で声を上げた。

「ご、ごめんなさい
 いきなり話しかけたりして…」

「いえ、こちらこそ…大きな声を出して驚かせてしまいましたね」

「…あの、何かありましたか?
 溜め息もついていたみたいですけど…」

それとなく聞いてみると
彼は『聞かれちゃいましたか』と気まずそうに苦笑いを浮かべ
わたし達は給湯室へと移動した。