わたしは逆にすっかり忘れていたんだ。
父の取引先の相手、”鮎沢社長”の顔を。
パーティーの席などで何度か挨拶はした事があったけれど、会社で直接会う事はなかったし、父の元には色んな人が来るから1人1人の顔を覚えておくなんて到底無理。
だからあんな失礼な態度・・・
「鮎沢社長、今日はどのようなご用件でこちらに?」
「漣社長が倒れたと役員から一報があってね。
本来は《《息子》》から聞くはずなのに
何をしているんだろうと思い、伺った次第だよ」
燈冴くんの質問に息子を横目で流しがら淡々と答える一方で、息子自身は父から目を逸らして唇を噛みしめている。
ここもここで
何か事情があるような雰囲気。
「…そうでしたか。
今お茶を淹れますので掛けてお待ちください」
「いや、結構。
息子がここで遊んでいる事がわかったので充分だ。私は失礼するよ」
冷たく言い放ちわたし達に背を向け
ドアへと向かう喧嘩腰の父に、戸惑いを見せる息子。
そしてその様子を
冷めた瞳で見つめる燈冴くん…
余計に空気が重すぎる…
「そうだ、真白くん」
誰も何も言わないこの状況で
また声を出したのは鮎沢社長。
それもその相手は、息子ではなく燈冴くんの方で・・
「漣社長から聞いてると思うけど
今後は芹斗がここを継ぐ。
まぁ仲良くしてやってくれ」



