「ごめんごめん。
でもその”好きな彼”は漣社長の秘書なんでしょ?
どうして今までずっと姿を現さなかったの?
社長、倒れたよね」
鮎沢さんは強かに
”倒れた”を強調しながら燈冴くんの方に視線を移す。
痛いところを突かれた、と
わたしはそう思った。
「おかしいと思ったんだよね。
こんな大きな規模の会社なのに秘書の1人もいないなんて。理由を聞いても頑なに答えなかったし。
言えない《《何か》》があったわけだ」
「それはッ」
「貴方には関係ありませんよね、鮎沢さん」
否定しようとしたタイミングで
燈冴くんはお茶をわたしの前に出しながら話を遮った。
しかし彼も負けじと言い返す。
「関係はあると思いますよ。
今後こちらの会社とは長いお付き合いになりますし、それにアナタの進退だって決めるのはウチの方ですから。秘書がいながら社長が倒れたとなれば、これは大問題ですよね」
言ってる事が正しいだけに
わたしは何も言い返せずに俯いてしまう。
「僕が社長になっても
秘書を真白さんに《《だけ》》は頼みたくないですね」
次から次へと浴びせられる辛辣な言葉。
燈冴くんの事情を何も知らないからって
こんなのあんまりだ…
けれど燈冴くんは動揺する事がなかった。
「それなら良かった。
私も貴方に仕えるのは御免です。
どんなに泣いて頼まれてもお断りしますね
《《絶対に》》。」



