無彩色なキミに恋をして。


あー…今すぐ解放されたい。

「じゃ、じゃぁ…わたし…
 お茶でも淹れようかなぁ…」

逃げ出す口実に提案したティータイムのはずが
もちろんそんな理由が燈冴くんに通用するわけもなく。

「お茶ですね。
 いま私がご用意します」

スッと立ち上がり
いつもの”執事”の仕事をしようとする。

僅かな休息もさせてもらえない…
これが職業病なんだろうな。

「ではその間
 緋奈星さんは僕と今後の話を進めましょうか」

「こ、今後…?」

「はい、《《結婚》》に向けての話し合いです」

鮎沢さんの強調する”王手”の一言に
わたしが驚く前に先に反応したのは、燈冴くん。

グシャ…と割れた音が耳に入り振り返ると
背中越しに見えたのは、片手でティーカップを無言で握りつぶしている彼の姿。

「と、燈冴くん…?」

「すみません。
 つい手に力が入ってしまいました」

謝罪しながらニコリと笑顔を向けてくれたけど
全っ然、目が笑ってない。

怒りの矛先を向けられたカップが無残・・・

「ねぇ緋奈星さん。
 キミの好きな人って、もしかしてこの人?」

仕事の手を止めて
わたしを見ながら顎で燈冴くんを指す鮎沢さん。
本当にすごく態度が悪い人だ。

「そうですけど。
 《《この人》》呼ばわりしないでください。
 失礼です」

燈冴くんじゃないけど
わたしまでムッとした。